「ダイハツ自動車危機! 長期にわたる認証申請における不正」~ 文書情報管理にできることはあるか! その1 ~

 2023年12月20日夕方、ダイハツ工業が車両の安全性を確認する衝突試験で不正をしていた問題で、親会社のトヨタと共同記者会見を行った。会見の中で、1989年から実に34年前にも認証試験で不正を行っていたことが語られ、その根深さに驚愕した方も多いと思います。

 第三者委員会により認証試験での不正を調査した結果、不正行為が確認された車種はすでに生産を終了したものも含め64車種・3エンジンとなり、ダイハツ自動車は国内外で生産中の全てのダイハツ開発車種の出荷を一旦停止しました。まさに、会社存続の危機となっています。

 本件の真因として、第三者委員会は次の2点を挙げています。

(1)不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進した経営の問題

(2)ダイハツの開発部門の組織風土の問題

 特に、(2)の中で、”「できて当たり前」の発想が強く、何か失敗があった場合には、部署や担当者に対する激しい叱責や非難が見られること。”については、マネジメントの放棄とも映りました。

■注目したい調査手法

 第三者委員会の調査では、以下の7種の方法を使用しています。

①ダイハツから入手した関係資料の精査

②対面、Web会議及び電話の方式によるヒヤリング

③役職員37名の電子データを対象としたデジタル・フォレンジック調査

④役職者3,696名を対象としたアンケ―ト

⑤ホットライン開設・運営

⑥認証申請書類に関連する不整合の確認

⑦現地視察

 この中でも注目したいのは、「デジタル・フォレンジック調査」です。最近では、不正が起きたら「デジタル・フォレンジック調査」をやるべしという記事は多いわりに実施例の公開があまりなかったのですが、今回、出てきました。そして、成果として類似案件を示唆するコミュニケーションを抽出しています。

 具体的にどんなことを行ったかについて報告書に記載がありますので、以下に紹介します。ただし、これは直近5年間について実施されました。

 「保全対象のデータとしては、全保全対象者のメールサーバーとMicrosoft Teamsのデータを保全した上、一部の役職員についてはPC、携帯及びタブレットのデータも保全した。第三者委員会が設定したキーワードにより、97,325件に対しレビューし、類似案件を示唆するコミュニケーションを抽出した。」

■アンケートに寄せられた声

 また、アンケートには次のような率直な声も寄せられています。これは、一例ですが、アンケートに対しすぐさまこのように反応できるということは、社内の人が気づかないまま、悪い社風が堅持されたというより、むしろ殆どの人は気づいていながら止められなかったと考えることの方が正しそうですね。

〇不正行為の根本的な問題は、開発失敗・ミスを叱責する風土だと考える。直接的に日程を守りたかったから不正行為をしたわけではなく、日程を守れなかったときに叱責されることを避けたかったのでは? 問題を起こした部署や担当者が会議で吊るし上げられたり、必要以上の叱責を受けることがある。昔に比べれば随分マシになったが根っこの部分に残っており、叱責する側の人は無自覚で叱責している。また、そういった人でも上位へ昇進できることも問題で叱責文化が無くならない。

■調査網羅性の限界

 本第三者委員会は、今回は任意調査であることからその限界があること。さらには証拠の散逸等に伴う限界があり、ダイハツにおいてこれ以外に類似案件が存在しないことを保証するものではないとしています。

ここは、文書情報管理的には、大いに気になるところであり、過去はどうで、今はどうなっているのだろうか。

■第三者委員会からの再発防止策提言

 第三者委員会からは、次の9点の再発防止策が提言されています。残念ながら、文書情報管理と直接結びつくものはなかった。次回は、文書情報管理観点からの再発防止策について考えてみたい。

①経営幹部から従業員に対する反省と出直しの決意表明

②硬直的な「短期開発」の開発・認証プロセスの見直し

③開発・認証プロセスに対する実効性のある牽制

④コンプライアンス及び自動車安全法規に関する教育研修の強化

⑤職場のコミュニケーション促進と人材開発強化

⑥内部通報制度び信頼性を向上させるための取組み

⑦経営幹部のリスク感度を高めるための取組み

⑧改善への本気度を示す経営幹部のメッセージの継続的な発信

⑨本件問題の再発防止策を立案・監視する特別な機関の設置                                        

以上