技術・技能伝承、「2番じゃだめなんですか?」

「2位じゃだめなんですか?」──。これは、2009年に行われた”事業仕分”での蓮舫参議院議員が発したセリフとして多くの方が覚えておられるフレーズです。これを「技術・技能伝承」の場面で考えてみませんか。

 そもそも「技術・技能伝承」を文字通り捉えると、「今ある技術・技能を次世代に伝える。」といったところでしょうか。これだけでも結構大変です。そこで、生産管理の基本としては、「標準化」の大切さが説かれています。

1.標準化

 標準化には、物の標準化と方法・作業の標準化があります。標準化と言えば、すぐに「マニュアル化」を思い浮かべますが、「マニュアル化」=「標準化」ではないことに注意が必要です。

「マニュアル化」は、わかりやすく言えば可視化と考えて頂ければと思います。「標準化」は、その可視化したものをベースに、効率よく、また確実あるいは安全に行う方法を検討した上で、文書化したものになります。

2.どのように伝えるのか

 マニュアルあるいは標準化した標準作業手順書は、当然のごとく関係者で共有され、それを用いて教育し、それに従って作業を進めるよう統制を利かしていく必要があります。

3.技術・技能伝承=標準化 でしょうか。

 標準化の前提として、誰でもその文書を見て、作業ができるということがあるので、個人の能力によってやり方を変えるということは通常はありません。

 作業の生産性という観点では、標準化して作業を進めるとことで、その職場での平均的な生産性はあがりますが、個人によっては、生産性が下がることもあります。また、個人の能力によっては、担当できる作業に制約を受けることもあります。

 軽度な難易度の作業であれば標準化作業は比較的簡単ですが、難易度の高いものの標準化作業は簡単なものではありません。

4.これまでの技術・技能を伝えるだけでいいのでしょうか。

 このような標準化にのみ力点をおいてしまうと、今ある技術・技能だけを伝えるのに精一杯になりがちです。このような現状維持が目標となってしまうと、世の中の進歩に比べて競争力を失っていくことに繋がっていきます。技術・技能伝承とは言え、もうひとつ大切なことは、技術・技能のレベルを競合力のあるレベルに維持または向上させることではないでしょうか。

5.2位じゃだめなんですか。

  技術・技能のレベルを競合力のあるレベルに維持または向上させるためには、どうしたらよいのでしょうか。2位でいいといった途端に何が起きるのかを考えてみましょう。技術や技能の場合、2位を目指すのと1位を目指すのでは全くアプローチが違ってきます。

 2位でいいとなった途端、人まねや物まね、情報集めに注力し始めます。一方、1位というのは誰も成し遂げたことがないこと、ひょっとしたらできないこと、あるいは運がよい場合だけ可能であることを目指したりします。

 下図の氷山に例えれば、海面に出ている部分だけ見れば1位も2位もそれほど差がないように見えますが、海面下にある氷山の体積は明らかに異なっており、1位と2位の技術力と技能力は、外部から見えている部分よりも見えていない部分の方が圧倒的に大きいと言えます。これが1位との差であり、2位じゃだめなんです。

6.文書情報マネジメントの必要性

 そして、この氷山の体積に比例した文書情報マネジメント力がないと次世代への伝承力は弱いと言えると思います。一子相伝などでは非効率でありますし、失敗を含めてでナレッジを蓄積し、それを体系化し、活用していくことで、初めて伝承力を持つと考えられるのです。

(溝上)