文書を安全に取り扱うために私たちは何をしなくてはならないか
文書取り扱いの最小要件 ISO 19475:2021の概要
1 文書を安全に取り扱うために
日本文書情報マネジメント協会(以下、JIIMA)は、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)社会を支えていくための電子・電子化文書を安全・安心して取り扱うことができるようにする規格の開発をしてきています。
DXを支えていくためには、文書をデジタル化して流通させていく必要があります。この時、組織間でやりとりされる文書の信頼性を維持していくことが重要です。文書を作成する人が期待される通りの手順で作成することによって、はじめて「文書の信頼性」というものが証明できることになります。また、文書を受
け取った人が信頼性を確認するには、それらを示す符号やデータを確認し、突合せしなければ信頼性があると判断することはできません。
JIIMAでは、このような仕組みを国内外の規格として制定することにより、より安全なデジタル社会を作っていくことができると考えています。
2 文書の取り扱い規格の制定の背景
周回遅れのデジタル化
デジタル社会が先行している欧米各国は「電子文書の信頼を確保する」ために、電子文書のオリジナリティや処理の過程での改ざん抑制手段は、証拠となる書類の取り扱い規則や電子証拠と判定するための規則で考え方を示しています。一方、我が国では、一部電子化して「作業の結果」を保存することを認めるという法律(e-文書法)が存在していますが、デジタル化した文書の取り扱いについては、先行している欧米諸国からはその法やガイドの制定時期と照らし合わせると10年あまりの遅れを持っている状況です。
ルールなきハンコレスで電子文書の安全性は危機的な状況
新型コロナウィルスの蔓延で人の流通が途絶え、情報を運ぶ手段としての「紙」が流通することが難しくなったために、我が国の政府は急激にデジタル社会を推し進めています。ペーパーレス、ハンコレスでの業務再構築をしていくことは各方面から唱えられています。
一方で、文書の信頼性の評価については、文書に捺印されている「ハンコを目視確認」することで、「ハンコがあるので原本と推測できる」、取引の申込書に「捺印」されているので「本人の意思確認」ができている、とされてきています。そのため、ハンコの代わりに免許証の写しを要求されたり、いまだに「紙の
流通」と「ハンコ」または「ハンコに代わる確認書類」が確認の主流となっています。
安全に文書を取り扱うために私たちは、どのように作業すべきか
今まで組織や個人は、文書の所有権や作成者名を記して、信頼性のある文書であることを宣言する方法や、業務が完了した文書を「アーカイブ」に保存して過去の事実の確認ができるようにするような仕組みが多く取られてきました。残念ながらこれらの方法は、「紙」と「捺印」が無いと取り扱いができない仕組みとなっていました。紙の場合であれば、特定の場所に保存すればその後変更することができません。また、複製も抑制することができます。
しかし電子文書は、常に更新や複製が可能な状態にあります。これらの状況は、我が国ではデジタル社会への進化を阻害する要因とされてきましたが、欧米ではこの特性に基づいて、安全性を確保するための施策がなされています。ISO/TC171では、ここで示された施策のポリシーを整理し、次の(1)~(3)の規格化を推進しています。これらの規格は全て、JIIMA会員各社からの要求事項を整理した内容をJIIMAより提案しています。これらの規格を活用すれば、各製品やサービス、さらには各組織の文書取り扱いの安全性は格段に向上することになります。
(1) 文書を安全に生成し、受信する手順を組織でルール化する。(ISO 19475)
(2) 文書を安全に送付する場合に、マーキングを管理・コントロールする。
(3) 文書を安全に送受信する場合の、確認、検証の技術適用規準。